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5.彼に会うためには

مؤلف: 月山 歩
last update تاريخ النشر: 2025-08-19 13:15:47

「サラ様、マリウス様がご自室にお越しいただきたいとおっしゃっています。」

チャベストさんが声をかけた時、私は久しぶりに侍女達に髪を解かされていた。

長らく手入れもされず放置された髪は、すっかり絡まってゴワゴワで、ギルフォード公爵家の侍女たちの腕をもってしても、どうにも手に負えなかった。

「わかったわ。

少し時間がほしいと伝えて。」

「承知しました。」

チャベストさんがマリウス様のところに戻って行ったが、残念ながら今の私では彼に会える気がしない。

髪の状態もさることながら、ブカブカになってしまったドレスもまた深刻である。

今の私の体に合わせて仕立て直しが必要なまま放置されていたのだ。

でも、もうマリウス様に呼ばれることも、この部屋から出ることもないと思っていたから、正直、どうでも良かった。

「サラ様、いっそのこと髪を切ってしまってもよろしいでしょうか?」

髪を整えようと奮闘してくれている侍女達も、この髪ではどうにもならないと諦めたらしい。

「そうね。」

「ハーフアップにすれば、長さはうまく誤魔化せるかと。」

「ええ、そうして。」

侍女達が肩より下の辺りで、髪を切り始める。

腰まで伸びていた髪はひどく絡まり、頭を重くしていたので、切ってしまえば首の痛みが解消されそう。

むしろ良かったわ。

「お肌はどうなさいますか?」

「そうね、どうしようもないわね。」

湯浴みの際、本来なら香油を塗ってくれるはずの侍女がいなかった私の肌は、すでに乾燥し始めていた。

一人で湯あみして、髪や肌の手入れなどする気にもなれなかった。

そんな身だしなみを気にかける心の余裕や必要性を感じられなかったから。

本当にダメね。

いつかマリウス様と再び顔を合わせる日が来るかもしれないのに、この有り様ではせっかくの機会がふいになってしまう。

不貞を疑われている時点で、もう地に堕ちた存在なのだから、今更かしら。

それでも今、侍女たちは私を囲み、髪を整え、肌に少しでも艶が出るよう、一生懸命準備をしてくれている。

この方達は、不貞疑惑のある私にも、態度を変えることなく、職務を果たしてくれている。

私の力では得られなかった者達。

私がもしモニカ達に慕われていたら、こんな時も味方になってくれたのかしら?

それとも、マリウス様を慕う侍女達の前では、どんなに心を砕いても無意味だったのかもしれない。

不貞の噂が流れる前までは、彼女達とそれなりにうまくやっていると思っていたのに、それが間違いであったことにも、密かに傷ついていた。

日々顔を合わせていたこの屋敷の中に、ローサ様のように無条件で私を信じてくれる者は、結局、一人もいなかったのだ。

「ドレスはどうなさいますか?」

「それが一番の問題ね。

今さらしょうがないから、諦めてブカブカのドレスを着て行くわ。

マリウス様をお待たせし過ぎてしまうから。」

「そうですね。

手直しするとしても、到底間に合いません。」

「じゃあ、前に一番きついと思っていたドレスを着るわ。」

「はい、ご用意いたします。」

湯あみを済ませ、侍女達に身支度を整えてもらっている最中、ふと気になっていたことを聞くことにした。

「ねぇ、一つ聞かせてもらっていいかしら?」

「はい。」

「私の背中の真ん中にはほくろがあるの?」

「はい、ございます。」

「それは目立つのかしら?」

「そうですね。

サラ様のお体を見たことがある者でしたら、誰もが気づくかと思います。」

「…そう。

ありがとう。」

私は侍女達の手を借りてドレスに身を包み、マリウス様の寝室へ向かう。

そう言えば、こうして廊下を歩くのもいつぶりかしら。

久しぶりに姿を見せた私に、廊下で行き交う使用人たちは、一瞬驚いたように目を見開いた後、すぐに視線を逸らした。

まるで、見てはいけない幽霊のような存在なのね。

もうここにいないかのように。

それでも、ローサ様が食べさせてくれた料理のおかげで、ほんの少しだけ気力が戻った気がする。

今ならマリウス様と再びお話することもできるかもしれない。

これまで、彼とお父様に面会をお願いしても、一向に返事をもらえずにいた私は、いつしかすべてを諦めていた。

寝室のドアの前まで来て、静かにノックをする。

「マリウス様、入っていいかしら?」

「ああ、どうぞ。」

奥からマリウス様の声が聞こえ、私はそっとドアを開け、寝室に足を踏み入れる。

ソファに腰掛けていたマリウス様は、少し痩せたように思い、心配になる。

私もそうだから、人のことを言えないけれど。

「失礼します。」

私達は他人行儀なやり取りの後、ぎこちなくソファに座り、お互い視線を交わす。

しばらく会っていなかったから、懐かしいとさえ思えるわ。

それにしても、こんなに美しく繊細な造りをした男性は、彼以外にいないだろう。

夜の闇のような濃い青色の瞳は氷のように冷たく、それでいて私を捕えて離さない。

やはりまだ、怒りは癒えていないのね。

それならどうして私を呼んだのだろう?

もしかして、離縁の話をするつもり?

それだけはやめてと縋り付けば、まだ望みは残されているのかしら。

ほんの少しでも、私の願いに耳を傾けてくれる余地がまだあるの?

「元気だったかい?」

「…そう見える?」

「いや、見えない。」

「元気とはかけ離れていたわ。」

おかしいわ。

信じてくれないマリウス様に段々と苛立ちを覚える。

だって私はそもそも不貞なんてしていないのだから。

これ以上私に何を求めているのかもわからないし、腹立たしさは消えない。

もし、離縁するとしても、私の無実だけは何としても証明してみせる。

このまま、やってもいない罪で裁かれ、悔しさだけを残すなんて絶対に嫌。

徹底的に調べて、すべてを明らかにするつもりよ。

抑えていた思いが込み上げるのを感じた。

覚えていて、マリウス様、信じてくれないあなたに今では怒りさえ感じているわ。

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  • 嘘が愛を試す時 〜君を信じたい夜に〜   18.ローサ様と引き換えに

    遡ること数刻前、「サラ様、ローサ様の侍女がお話があると、いらしております。」邸では侍女達が揃い出し、ローサ様の侍女達は、つい先日、彼女の邸に戻ったばかりだった。「あら、何かあったのかしら?応接室にお通しして。」「ですが、旦那様から邸に誰も入れてはいけないときつく申しつかっておりまして。」「でも、ローサ様の侍女達は特別よ。とてもお世話になったの。」「かしこまりました。」マリウス様は今、ルヒィナ様とご両親を安全なところに避難させるために、邸を離れたままだ。けれど私は、この邸にいる限り私兵に守られているから、安全なはずだ。軽く身なりを整え、ローサ様の侍女が待つ応接室に向かうと、部屋の中には固い表情のソニアさんが、指先で袖口をせわしなくいじり続けながら私を待っていた。「先日は、大変お世話になったわね。結局、マリウス様とルフィナ様を訪問することで、彼女と直接話せたの。誤解が解けて、また仲良くできそうよ。落ち着いたら、ソニアさんにもお礼を考えているの。ぜひ、受け取ってね。」「はい、…。」何故かソニアさんは、気もそぞろといったようすで言葉に詰まる。「どうしたの?落ち着かないようすね。何かあったの?」「…それが、ホルダー侯爵様が、ローサ様を拘束しておりまして、サラ様を私に連れて来るようにと命じました。」「えっ、何ですって?ローサ様が?」「はい。サラ様、ローサ様を解放するために一緒に来ていただけますか?もし、他の者に口外したら、ローサ様の命はないと言われています。誰にも告げずに、ホルダー侯爵様の指示に従ってくれますか?…お願いです、サラ様、私はローサ様を守りたいんです。」「もちろんよ。それは私のせいでもあるもの。ローサ様は巻き込まれただけ。すぐに参りましょう。」「ありがとうございます。サラ様が身代わりになるとわかっていながら、こんなことをお願いしてすみません。」「いいのよ。ローサ様が解放されたら、マリウス様に伝えて。そしたら、あなたはこのことを忘れて。何も悔やむことはないわ。」「…すみません。」「さあ、行きましょう。」結局、私がホルダー侯爵の元へ行かないと、いつまでも終わらないのね。ただ巻き込まれただけの、新たなる犠牲者が生まれてしまう。私のせいで、もう誰も傷ついてほしくない…。私はソニアさん

  • 嘘が愛を試す時 〜君を信じたい夜に〜   17.邸へ戻ると

    マリウスはルヒィナさんとカーソン男爵夫妻を、信頼のおける知人の別邸まで送り届けた後、王宮に赴き王にすべての経緯を報告し、夜更けをとうに過ぎた頃、邸に戻って来た。王は不貞はホルダー侯爵の虚偽だと理解してくれたが、実際のところ、僕が「不利益を被った。」と訴えても、「たかだか金銭の支払いを請求できるだけで、たいして罪には問われない。」と判断された。僕の名誉が少し傷ついただけで、僕達がそのことで離縁したわけではないからだ。そう言われれば、腑に落ちないが仕方ない。だが、ルヒィナさんは脅迫されて、ホルダー侯爵と離縁しているし、カーソン男爵夫妻もこの先彼に狙われる可能性がある。彼女らには僕を通して保護が適用され、しばらく近衛兵が避難先の警護に当たってくれることになった。しかし、現段階ではカーソン男爵家へ本当に危害を加えるか分からず、たいした罪に問えない。離縁や脅迫の罪では、金銭を要求できるが、牢に捕えることまではできない。だから、とりあえずは対策をして様子を見るしかできることは無かった。仕方がないのでそちらは一旦置いておいて、僕は何としてでも先にサラとの仲を修復したい。彼女が不貞をしていなかったことは、最大の喜びだけど、それと同時に僕がサラを信じなかった罪が生じている。僕は間違った判断をし、どうすれば彼女が許してくれるかまだわからない。けれども、こうなってしまった以上、誠意をもって謝るしかないこともわかっている。無実のサラを疑い、長い間責めていたのは、すべて僕が悪い。彼女があんなに「信じてほしい」と訴えたのに、証拠があるからと彼女に寄り添えなかった罪は大きい。どんなに証拠があったとしても、彼女を信じきる。その覚悟が僕には足りなかった。自分の過ちの重さに、打ちのめされる。邸に戻ると、ただならぬ気配のチャベストが、僕の帰りを待っていた。「マリウス様、おかえりなさいませ。早速ですが、重要なお知らせがあります。人に聞かれたくないので、ここでは話せません。二人きりになれるところに参りましょう。」「わかった。応接室で聞こう。」すぐに二人は足早に移動し、部屋に着くなりチャベストは話し始める。「早速ですが、ローサ様の侍女がサラ様を迎えに来まして、すぐに二人はギルフォード公爵邸に向かうと話し、馬車で出て行かれました。お引き止めしましたが、どうし

  • 嘘が愛を試す時 〜君を信じたい夜に〜   11.対面

     マリウスは今日もサラと、寝室でワインを交わしていた。 小さなテーブルとワイン、それだけあれば、彼女と過ごすには十分だった。言葉を交わすことは少なくても、サラに会いたいという想いは消えず、僕たちは何度も同じ時間を繰り返している。「今日、急に思い立って、ルヒィナさんを訪ねて教会に行って来たよ。」「えっ、ルヒィナ様のところに?」「ああ、同じ立場の彼女が気の毒に思ってね。それにあの離縁を、どんな想いで受け入れたのか知りたかった。僕にも彼女のために何かできることがあるかもしれないと思ったんだ。」 「そうでしたか…。彼女はどうしていましたか? お詫びのお手紙を書いても、お返事をいた

  • 嘘が愛を試す時 〜君を信じたい夜に〜   10.教会で

    マリウスは今でもなお、サラがホルダー侯爵に近づくことが、極端に許せないでいた。ここまでされてもサラは僕のものだし、あの男に渡すなんて絶対にしない。それならいっそ、サラを連れて、誰にも知られぬ場所に隠れてしまいたいとすら思う。サラが浮気を認めて、「僕と別れたくない。」と謝ってくれたら、きっと僕はもう許していただろう。だが、頑なに認めないその態度が、僕には許せないし、二人の新たなる一歩を阻んでいると思う。だから、僕の心はずっとここに留まりながらも、君の言葉を待ち続けている。でも、僕の心がもうダメだと悲鳴をあげた時は、諦めて一人で生きていこう。僕はそれほど器用には生きられないとわかっ

  • 嘘が愛を試す時 〜君を信じたい夜に〜   9.二人の夜

    ある夜、いつものようにマリウスはサラを寝室に呼んでいた。「やあ、ここに座って。」「はい。」静まり返った部屋の中、あえて向かい合うソファを勧める。さすがに、以前のように横に並んで酒を飲めるほど、僕はまだサラを許していない。それでも、一緒に飲みたくてサラの前に置かれたグラスにワイン注ぐ。「ありがとう。」サラが僕をチラリと見て、短く礼を言う。「…飲みやすいといいけれど。」そう言って、自分のグラスにも注ぎ、静かに手に取った。「…。」けれどそれ以降、お互いに言葉は続かない。二人きりでいるのだから、話したいことは山ほどあるのに、口に出せる言葉は限られている。サラがワインをひと口

  • 嘘が愛を試す時 〜君を信じたい夜に〜   8.ルヒィナ様の行方

    「ルヒィナさんがどうしているか、わかったわよ。」「ありがとうございます。」ローサ様は早速、夫人仲間のつてを頼りに、ルヒィナ様の居場所を探し出し、相変わらず寝室に引きこもっていた私を、訪ねて来てくださった。「それでね、そのルヒィナさんだけど、どうやら修道院にいるらしいの。」「修道院ですか?…そんな大変なところに。」「ええ、そうなの。」「行き場がなかったのでしょうか?実家に戻ることさえ、許されなかったのね、気の毒に。」「それがね、行き場を無くしてではなく、本人が望んだということなの。」「えっ、そうですか…。きっと私達のことで、心を痛めてしまって、神に救いを求める道を選ばれた

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